小走り
見知らぬ人のために
全力で小走りできる女、ミサキです。
ドラッグストア。
入口の少し先を歩いていた人が、
ドアを開けたまま
こっちを見た。
待ってくれている。
まだ距離、
10メートルくらいある。
歩幅を変えずに行くと、
相手を10秒くらい待たせる。
体が先に動いた。
小走り。
でも小走りだと思われたくない小走り。
腕は普通に振る。
顔は涼しくしておく。
息は、
なるべく漏らさない。
7メートル。
5メートル。
「すみません、ありがとうございます」
言えた。
自然に言えた。
その人は
軽く会釈して
もう反対方向に歩いていた。
振り返らなかった。
たぶん、
もう私の顔を覚えていない。
心臓だけが、
まだドキドキしている。
買い物かごを持ちながら
息を整える。
本日の運動、
それだけ。
夜、
夫に話したら、
「別に走らなくてよくない?」
そう。
それはそう。
でも、
ドアを開けて待たれた瞬間、
選択肢は消えている。
ではまた。
ドアを押さえてくれた人は、
もう私の顔を忘れている。
1 views