運転席の権利
どうも、
車の中で一曲もかけられずに着く女、ミサキです。
家族で出かける。
運転は夫。
助手席は私。
後部座席に子ども。
エンジンをかけると、
夫の好きなラジオが流れ始める。
これは、
もう仕様みたいなものだ。
十分ほどして、
後部座席から声がする。
「あの曲かけて」
子どもの、
今ハマっている曲。
夫がスマホをつないで、
かける。
かかる。
三回リピートされる。
運転席と後部座席で、車内は完全に分割されている。
私の席には、
何も割り当てられていない。
助手席には、
ナビを見る役と、
飲み物のフタを開ける役と、
「次どっち?」に答える役がある。
役はある。
選曲権だけ、
無い。
一度だけ、
「私の聴きたいのある」
と言ったことがある。
言ったら、
かけてくれた。
かけてくれたのに、
一曲目の途中で
子どもが飽きて話しかけてきて、
私は自分でボリュームを下げた。
自分で、
下げた。
誰にも止められていないのに、
自分で下げた。
それ以来、
言っていない。
言えばかけてくれるのは、
わかっている。
わかっているのに言わないのは、
たぶん、
かけたあとの数分に耐える自信がないからだ。
今日も、
ラジオと、
子どもの曲と、
その合間の会話で、
目的地に着いた。
悪くない。
本当に、悪くはない。
どうも、
車内で一番
再生回数がゼロの女、
ミサキでした。
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