引き手の位置
どうも、
ファスナーの噛み込みに一人で真剣になる女、ミサキです。
朝。
玄関。
子どものジャンパーを、
上まで閉める。
ジジジ、
と上がる。
子どものジャンパーは、
今年の秋に買った。
ファスナーは、
まだ新しい。
新しいはずなのに、
胸の下で、
止まる。
動かない。
引く。
動かない。
下げる。
下がる。
また上げる。
同じ場所で、
止まる。
見ると、
中の布が
歯の間に
はさまっている。
裏地だ。
「ママ、
遅刻する」
わかっている。
布を、
指で
引き出す。
出ない。
ファスナーを
少し下げて、
布を
逃がす。
うまく
抜けた。
上げる。
ジジジ。
行ける。
行けた。
……喉の下で、
また止まった。
今度は
首のところの
布が
はさまっている。
引き手の位置。
ここで
一回、
深呼吸する。
布を
一度も見ずに
上げようとしたのが
悪かった。
片手で
布を
ぴんと張って、
もう片方で
引き手を持つ。
ゆっくり、
上げる。
上がった。
子どもが
一言。
「ママ、
最初から
そうやって
閉めて」
その通りです、
と言う。
子どもを
送り出す。
玄関のドアが
閉まる。
自分の
ダウンの前を
見る。
いつものように、
勢いで
ジジジと上げていた。
腰のあたりで
引っかかっている。
ゆっくり、
布を張って、
引き手を持つ。
できた。
子どもに言った通りの
やり方で。
ではまた。
人のファスナーは、
ゆっくり閉められる。
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