一ミリの仕事
どうも、
誰も見ていない一ミリを直しにいく女、ミサキです。
新刊の平積み。
十冊くらい重ねて、
表紙を上に向けて置いてある。
このとき、
角が
そろっていないと気になる。
上から三冊目が、
わずかに右へずれている。
わずか、
というのは本当にわずかで、
たぶん一ミリない。
お客さんは、
まず気づかない。
気づかないどころか、
手に取った瞬間に
どうせ全部ずれる。
直しても、三分後には崩れる仕事。
わかっている。
わかっていて、直す。
指を横から当てて、
とんとん、と寄せる。
そろう。
そろった瞬間、
少しだけ気分がいい。
この気分、
誰にも共有できない。
同僚に
「見て、そろった」
とは言えない。
言ったところで、
「そうですね」
で終わる話だ。
だから黙って、
次の棚へ行く。
家に帰ると、
リビングのテーブルには
子どものプリントが
斜めに三枚重なっている。
これは、
直さない。
なぜか、
まったく気にならない。
同じ「ずれ」なのに、
職場の一ミリだけが
私の敵になる。
閉店前、
もう一周する。
さっき直した平積みが、
また崩れている。
当然だ。
一日で何十人も触る。
崩れたのを見て、
がっかりするかというと、
そうでもない。
崩れているということは、
誰かが手に取ったということで、
それはこの本にとって
いいことだ。
そう思いながら、
やっぱり直す。
明日また崩れるのを
知っていて、直す。
どうも、
一ミリには厳しく
三十センチには寛容な女、
ミサキでした。
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