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街とお店で

断れない距離

どうも、
試食の楊枝を受け取った時点で負けている女、ミサキです。

スーパーの、
惣菜コーナーの角。

ホットプレートの前に、
エプロンの女性が立っている。

まだ何も言われていない。

でも私は、
この時点でもう
少し歩く速度を落としている。

目が合った。

「よかったらどうぞ」

小さな紙皿。
楊枝が一本。

受け取る。

食べる。

おいしい。

本当に、
普通においしい。

問題はここからだ。

食べたあと、
私と女性の間に
「感想を言わなければいけない空気」
が発生する。

誰も強制していない。
発生しているだけ。

でも発生している以上、
無視できない。

「おいしいです」

言う。

言った瞬間、
女性の顔がぱっと明るくなって、
すかさず

「今日、二割引きなんですよ」

来た。

ここで断れる人が、
世の中にはいるらしい。

私は断れない。

正確に言うと、
断れないのではなく、
断ることに使うエネルギーの方が
高くつくと計算してしまう。

二百八十円。

二百八十円で、
この場が丸くおさまる。

安い。

そう思ってカゴに入れる。

家に帰って冷蔵庫を開けたら、
先週の同じ商品が入っていた。

前も同じ角で、
同じことを言われたらしい。

学習していない。

学習していないというより、
毎回まっさらな気持ちで
同じ角を曲がっている。

どうも、
楊枝一本で

意思が折れる女、
ミサキでした。

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